僕のプロレスラーとしてのリングネームである、悪鬼羅(アキラ)の名前がコールされる。それに合わせてリングインすると、相手側にも選手が入ってくる。  昔の旅人が着てそうな袈裟っぽいデザインのガウンを羽織っていて、その下は作務衣。錫杖を手にしていて、歩きながらそれを時々しゃらんと鳴らす。玄骨法師(ゲンコツホウシ)というリングネームがコールされ、リングイン。  僕が黒い道着の上を脱ぎ、頭の角を外すと相手もガウンを脱ぎ作務衣姿になる。ガウンを錫杖とともにセコンドが回収すると、お互いリングの中央に歩み寄る。身長二メートルほどの僕よりわずかに低い程度で、似たような肉厚な体型。鬼をイメージした覆面を被ってるのが僕、悪鬼羅で、スキンヘッドで顎髭もさもさなのが玄骨法師。見た目の怖さではいい勝負だと思う。  プロレス団体、レスリングビーストでは、ここのところ毎年節分特別興行がある。メインイベントは悪鬼羅対玄骨法師の調伏マッチ。悪鬼羅は勝つと相手を喰らうことができるが、負けるとしばらくの間法師に従わなければならない。法師はビースト軍団、悪鬼羅はそれと敵対するブルート軍団だが、法師に従っている間は一時的にビースト軍団の一員として法師とタッグチームを組まされる……ということになっている。ちなみに調伏マッチ自体は他の日でも行われることがあるよ。 「鬼よ、今年も私が勝ち、お前を豆まきの的にしてやろう」 「やってみろ。今年は我が勝利し、一方的に豆をまいてやる」  なんて、二人とも口調はキャラになりきってるけど微妙に緊張感のないやりとりをしてから、試合開始のゴングが鳴る。  試合は技よりも力と力のぶつかり合いという感じで、シンプルな打撃や相手を無理矢理持ち上げてぶん投げるような技をなんか掛け合ったり。最後は玄骨法師の決め技、相手を掴んで思い切り振り抜くラリアット、玄骨砲をまともに喰らってしまい、そのままスリーカウント。残念ながら負けてしまった。  というわけでこの後は色々準備があって、それからファンを交えたイベントで豆まきなんかがある。その時に豆まきの的にされてしまうことに。それに加えて、後日法師とタッグチームを組まされて、タッグのリーグ戦に出場させられることに。いや、僕自信は別にいいんだけどね。  シャワーを浴びて、試合用よりも口元が開いている覆面に変えてから控え室で椅子に座って待つ。同じようにシャワーを浴びて出てきたのは、バスタオル一枚きりの玄骨法師……として活躍している天地玄也(アマチ・ゲンヤ)。団体の古参メンバー、馬頭ショウゴこと天地照午(アマチ・ショウゴ)さんの従兄弟にあたる。 「旭(アキラ)さん、今日は俺がタチでいいんだよね?」 「貴様の好きにしろ。今日は貴様の意に逆らうことができぬ」 「旭さんは律儀だなあ。俺、法師みたいなキャラ自分の中にないから大変で……」  僕、明星旭(アケホシ・アキラ)は悪鬼羅の覆面を被ると自然とこのキャラになりきってしまう。被っていない時に悪鬼羅っぽく振る舞うのは何故かうまくいかないし、被っているときに素の僕として動くのもうまくいかない。不思議だ。  玄也は僕より三つ年下で二十八歳。十代の頃からの知り合いで、その頃から……まあ、僕があんなことやこんなことも教えちゃったりしたぐらいの関係だ。身体の関係はあっても、恋愛関係にはならない。そんな感じだ。 「キャラ? 何を言っているのか分からぬな。始めるなら早くしろ。急がぬと時間がなくなるぞ」 「そうだった。早くちゃんと『調伏』しないとねー」  法師の力によって鬼を調伏し、従わせるのだが、法師の精液を注入することで鬼がちゃんと言うことを聞くようになる……ということになっているので、調伏マッチの後はこうしてセックスする。悪鬼羅をこういう特別なイベントなんかで指示に従わせるためには、それなりの理由付けが必要なのだ。  玄也がバスタオルを取ると、半勃ちのチンポが露わになる。目の前に突き出されたそれに対して、僕は身体が自然に動いた。それにかぶりつき、少し余り気味の皮を剥くように亀頭を舌で転がす。 「ああ……」  少ししゃぶっているとすぐに完全に勃ち上がった。大きさはまあまあ。一度根本まで呑み込んで、喉の奥から唇まで口全体を使ってサオを包み込み、歯を立てずに優しく締め付けつつ頭を動かす。口の中には先走りの味が広がる。 「あー、アキラさん、それ気持ち良すぎる……すぐ出ちゃいそう」 「ん、出すのは構わぬが、口からでは法力が届かぬのだろう?」 「ああ、分かってる……けど。もう、しょうがないなあ」  玄也は名残惜しそうにチンポを口から引き抜くと、ローションのチューブを手に取った。僕は椅子に手を突いて尻を突きだした姿勢にさせられ、尻穴にはぬるりとした感触の指が触れた。ゆっくりはできないのでいきなり二本、まとめて差し込まれる。 「どう、アキラさん。ちょっときつい?」 「問題ない。少しぐらい乱暴にしたところで我の尻は壊れぬ」 「じゃあ指増やしちゃおうっと」  すぐに指が三本に増え、ぐりぐりと動いて中を刺激してくる。玄也も少しは僕の感じるところが分かってきたようで、それなりに気持ちいい。でも、指だけじゃ物足りない。 「法師よ。早く貴様の一物を喰らわせろ」 「俺も我慢できなくなっちゃった。じゃあアキラさん、立って」 「うむ」  玄也の指示通りに立ち上がり、腕を組んで待ちかまえる。後ろから腰を掴まれ、尻穴にチンポの先が触れる。少しはほぐされて広がったそこに、硬いチンポが突き立てられる。 「はあ……全部、入ったよ。アキラさんのケツ、凄い柔らかい……身体はこんななのに……」 「鍛えているからな」 「やらしいなあ……アキラさんは、鬼なのに……こんなに、はああっ……」  玄也が腰を動かし、チンポをずるずると抜き差しされ、途中で下からすくい上げるように天井を突き上げられる。それが結構気持ち良くて、身体が反応してくる。 「アキラさん、チンポから何か漏れてるね。俺のチンポで感じてくれてるんだ?」 「うむ。貴様の一物でも少しは腹が満たせそうだ。その調子で我を満足させてみろ」 「じゃあ、こっちも弄っちゃおうかな」  そう言うと、玄也は後ろから手を伸ばしてきて、僕のチンポを握る。漏れていた汁を亀頭に塗り広げ、指でぐりぐりと弄る。お尻と同時に責められると、凄く気持ちがいい。 「悪くはないぞ」 「ああ、こっちの方がやばそう……アキラさんのケツに、俺のチンポ消化されちゃいそうだよ……すっごい締まる……」  調伏の時は悪鬼羅からはなるべく相手を責めないようにしているが、意識して動かさなくても悪鬼羅の尻は相手のチンポを締め上げてザーメンを搾り取ろうとしてしまう。どちらかというとタチのつもりなんだけどなあ。  玄也の突きも、最初は僕を感じさせようと丁寧に動いていたけど段々と乱暴になってくる。奥まで突き込み、激しい抜き差し。チンポも乱暴に扱かれる。なかなか気持ちがいい。 「あー、気持ちいいっ、アキラさん、早くイってくれないと、俺が先に出ちゃいそう……」 「我を調伏するのだろう。我に喰われてどうする。仕方がない。ではもう少し激しく、そうだ。そこを突きながら、しっかり扱け」  自分から尻を少し動かして、チンポがいい感じの所に当たるように誘導する。同時にチンポをもう少し丁寧に扱かせる。これなら我慢しようとしなければ、すぐに出ちゃいそうだ。 「よし、そろそろ出るぞ。貴様も我の中にしっかりと出せ」 「はいっ、ああ、早く、もう我慢できないっ……」 「仕方がないな。貴様の手に出すぞ」  俺が感じやすいように誘導したおかげで、射精までは早かった。尻を突かれて押し出されるように、ザーメンが大量に噴き出て、玄也の手で受け止められる。数秒遅れて、玄也にも限界が訪れた。 「俺も出る、ああ、アキラさんっ!」  玄也の腰が動きを止める。尻の奥に大量のザーメンが注ぎ込まれているのが何となく分かる。玄也はそのまましばらく動かず、落ち着いてからチンポをずるりと引き抜く。僕の尻を軽く拭いてから、ザーメンまみれのチンポをしゃぶってくる。 「まだ物足りないか? 貴様が望むのであれば、我が喰らってやるが、どうする?」 「んん、アキラさんのチンポも欲しくなっちゃったけど……そんな時間ないよね。もう一度シャワー浴びて着替えないと」 「うむ、仕方がないな」  悪鬼羅としても満足してないみたいだけど、急いで準備しないとね。 「おにはーそとー」  リング上の僕……悪鬼羅と、それぞれ牛頭鬼、馬頭鬼をイメージしたかぶり物をかぶったゴズメズの二人に向かって豆がまかれる。中心にいるのは玄骨法師で、後ろには抽選で選ばれたお客さんが何人か並んで一緒に豆をまいている。  節分興行の時は、お客さんは調伏マッチでどちらかを応援するのを決めて、勝った方を応援していた人から抽選で何人か、この豆まきに参加できるのだ。法師が勝ったときはこんな風に悪鬼羅達に向かってまくが、悪鬼羅が勝ったときは逆に法師と選ばれたお客さんに向かって豆をまく。  悪鬼羅達三人の鬼はリングの中央にあぐらをかいて座り、ただただ豆をぶつけられる。ゴズメズの二人は大人しくしているが、悪鬼羅は散らばった豆を拾って口に入れたりしている。 「鬼よ。魔は大人しく豆で滅せられろ」 「我はこの程度の豆で滅せられるほど弱くはない。だから身体の中の魔を滅しているのだ」  なんて言いながら豆をぽりぽり。特別美味しくもないんだけど食べちゃうよね。 「よーし、じゃあみんな、この特別製の豆をぶつけてやれ」  そう言って社長のビーストマスク・イーグルフォームが配ったのは……運動会の玉入れ用の玉。豆っぽい形に作られていて、中身は小豆。それをよってたかって悪鬼羅達三人に投げつけられ、最後には豆っぽいデザインのバランスボールを法師が投げてきて、それに打ち倒されて豆まきは終了。選ばれたお客さん達はグッズをもらって満足そうに引っ込んでいった。  その後も細かいイベントがあって、最後は恵方巻きタイム。今日は売店に恵方巻きに普通の巻き寿司やら、細いロールケーキなんかもあったりするので、みんなでそれにかぶりつくのだ。お客さんも好きなものを選んで、今年の恵方に向かって丸かぶり。  選手もそれぞれ好きなものを手にしている。こういうときは好みや性格が出るものだ。馬頭ショウゴさんなんかは一番普通っぽい恵方巻きで、ライオンマスク(と言うことになっている)獣王バーニングレオさんは甘党なのでロールケーキ。社長は何故だかデカいフランクフルトを丸かぶり。食べ方がやらしい。  ちなみに僕……というか悪鬼羅は恵方ではなく鬼門の方を向いて丸かぶり。お客さんも何人かは悪鬼羅の近くに寄って鬼門の方を向いている。毎年のことなので定着してきたなあ。  うん、楽しいイベントだった。  イベントが終わり、解放されると悪鬼羅の元にはファンが寄ってきてくれる。その中には「悪鬼羅様の恵方巻き食べさせて下さい」なんて言うファンもいて……うーん、まだまだ帰れそうにないなあ。